初心者向け「男性きもの」を楽しく、かっこよく着るコツQ&A

2024.01.23

“きもの“と言えば女性の和装がクローズアップされがちですが、男性の和装も味わい深い楽しさがあります。しかも「男性きもの」は着付けがとても簡単。姿勢や歩き方など、ちょっとしたことに注意すれば、かっこよく見えます。

野瀬守弘さん(啓明商事㈱・代表取締役社長)と亀井彬さん(㈱ゑり善・代表取締役社長)に、男性のためのきものを楽しむコツ、これだけはおさえておきたいポイントを伺いました。

普段からきものに親しんでおられるお二人だからこその実感やアドバイス、おすすめの情報などをざっくばらんに語っていただきました。

 

左:野瀬さん 右:亀井さん

 

Q.着付けは難しくない?

A.原始的な構造だから、練習さえすれば簡単に着られます。

野瀬さん)プリミティブなつくりですから着付けは本当に簡単。レッスンを受けたり動画を見て練習すれば、ものの30分で着られるようになるのが「男性きもの」の良さです。

亀井さん)一輪車と同じで、その日のうちに乗れるようになったとしても、後日、何度か練習することも大切。特に帯結びはなかなか覚えられないんです。社会人になって、なかなかネクタイ結びが覚えられないのと同じ。でも、何度か練習すれば忘れることはありません。

 

 

Q.どんな時に着るの?

A.結構どこにでも着て行きます。

亀井さん)コンサートに行くのも友人と食事へ行くのも、仕事で打ち合わせをするのも、私はきもので行きます。たまに焼肉を食べに行くこともありますよ(笑)。男性の和装はフォーマルな印象にも、カジュアルな印象にもなるので、女性の和装に比べて便利で手軽な装いかもしれません。だからあまり着て行く場所を気にしすぎないことも楽しむコツだと思います。

 

 

Q.コーディネートのコツは?

A.洋服のように、好きなものを好きなように組み合わせればいいんです。 

野瀬さん)まずは好きな色や柄を選んで、実際に体にあててみて鏡で確認する。季節感を出したり、小物で差し色をプラスしたり、つまり洋服を選ぶときと同じです。

通常きものの下には長襦袢(ながじゅばん)を着るのですが、代わりにスタンドカラーのシャツ(襟の折り返しがないシャツ)を着る方もいらっしゃいますし、帽子やブーツなど、洋装で使う小物を合わせる方もいらっしゃいます。身構えることなく、いつものファッション感覚で選ばれるといいと思います。

 

Q.どんな姿勢がいい? おすすめの歩き方は?

A.オードリー春日さんのイメージです。

野瀬さん)きものを着て猫背になる人ってあまりいないと思うんです。皆さんおのずと姿勢が良くなるし、胸を張った方が間違いなくかっこいい。お笑い芸人のオードリー・春日さんのような堂々とした立ち姿が理想です。

歩き方は洋服と大きく変える必要はありません。ただし、きものは洋服に比べて足の可動域が狭い。早歩きはできても大股で歩くことはできません。もちろん全速力で走ることもできないので、きものを着た時は時間のゆとりが必要ですね

 

 

Q.かっこ悪い着姿にならないためには?

A.主なポイントは、えり元と帯の位置。

亀井さん)えり元の着くずれは目立つので、時々鏡でチェックすることをおすすめします。私の場合は、「えり留め」というネクタイピンのようなものを使って、えりの合わせ目が体の中心からずれないよう、きものと長襦袢(ながじゅばん)を固定しています。

動いているうちにえり元が広がってきたら、下の方からきものを引っ張って広がりをおさえます。女性の着付けに比べて男性の着付けはシンプルですので、ポイントさえ押さえれば着崩れも簡単に直せます。

 

えり留め

 

野瀬さん)帯の位置はウエストではなく、おへその下、腰骨のあたり。帯に下っ腹が乗るようなイメージです。細身の人は腰回りにタオルを巻くなどして厚みを補うと安定します。

歩いていると、どうしても帯がウエストあたりまで上がってくるので、時々帯をおへその下あたりにくるようにギュッと下げてください。その時のコツは“前下がり、後ろ上がり”。体を横から見て、前の帯のラインが背中の帯の結び目よりも若干下がっていること。そうすると下っ腹に帯がフィットして動きにくくなります。見た目もバランスが良いです。

どうしても着くずれが気になる人は羽織がおすすめ。羽織を着れば全部隠れますから(笑)

 

 

Q.袖(そで)に何を入れているの?

A.ハンカチや鍵など、よく使うものを入れています。

野瀬さん)私は普段、車の鍵や社員証を入れることが多いですね。スマホなど重いものは入れません。重いものでも入ることは入りますが、袖(そで)が重くなって腕を動かしにくくなるんです。そういう時は帯に挟んだり、懐に入れることもあります。

亀井さん)私はハンカチや車の鍵、マスクを入れています。女性のきものは袖(そで)は後ろの部分が切れているので入れたものが落ちることがありますが、男性のきものの袖(そで)はポケットのように袋状になっているので、入れたものが落ちる心配はありません。

 

 

Q.きものを着る男性は増えている?

A.ファッションとして楽しむ方が全国的に増えているように感じます。

亀井さん)ファッションの一つ、装いの楽しみとしてきものを選ぶ男性が増えてきていますね。また、コロナ禍を経て残業や宴会の機会が減り、歌舞伎や落語鑑賞、茶道などのお稽古事に時間を使う人が増えたことで、きものに興味をもつようになった方も増えているようです。これは京都に限らず、名古屋や東京でも感じることです。

 

11月に京都府庁で男のきもの着付け教室が開催されました

 

きもののたたみ方もレクチャー

 

 

Q.ズバリ! 男性きもののメリットとは?

A.きものは“自己表現”。目立つし覚えてもらいやすい。

亀井さん)単刀直入に言えば目立ちます。だからその分、覚えてもらいやすいんです。これは仕事をする上でメリットだと思います。

近年はネクタイを締めなかったり、クールビズを推奨したり、以前に比べて仕事場の装いが自由になってきました。そうした背景もあって会社内での会議はもちろん取引先との打ち合わせなどに、きもの姿を選ぶ経営者や営業マンが増えました。きものを“自己表現”として楽しみながら上手にビジネスシーンに取り入れているようです。

野瀬さん)近年たくさんの方が海外から来るようになって、日本文化が改めて注目されていますね。だから、きものを着ているとモテますよ(笑)。

特に30代からは仕事でもプライベートでも会食やパーティーに招待されることが増える。京都なら芸舞妓さんのところに連れていってもらうこともあります。そういう時にきものは便利です。特に経営者の方は1枚持っていた方がいい。これからスーツを新調するなら、きものをおすすめします。

 

▶︎京都で、きもので街歩きをしているうちに着くずれたら、京都きものパスポートに協力する施設・店舗が着くずれを手直ししてくれる「着くずれレスキュー」があります。きもの初心者の強い味方です。もしものときはぜひご利用ください。詳しくはこちらhttps://kimono-passport.jp/info-rescue/

 

協力/野瀬守弘さん(啓明商事㈱・代表取締役社長)、亀井彬さん(㈱ゑり善・代表取締役社長)
取材・執筆・イラスト/五島 望